享和二年年(1802年)真澄49歳の紀行文です。
木戸石(合川町)を出発し、増沢(合川町)、下田平・小繁(二ツ井町)を周り藤琴(藤里町)に着きます。
藤琴では、湯の沢、滝ノ沢、真名子、を通り太良鉱山に至ります。
この鉱山はたいそう賑やかだったようで、真澄はここで働く女たちの姿に心を打たれたようです。
下田平 |
=真澄記= 木戸石村を出て、岨路を行くと、下田平という村に出た。 村の端に広い池があって、ささやかな浮島が二つ浮いている様は良い眺めだ。 |
麻生(七座山:ななくらやま) |
真澄:七倉山
=真澄記=
あやうげな小舟に乗って麻生の村へ着いた。
七倉山に登れば、大きな巌があって、円仁が残した権現様と言って獅子頭を納めている。
松倉、大倉、三本杉の倉、柴倉、箕倉、烏帽子倉、正面(又の名を権現倉)と言い、七倉山と言う。
年老いた松や桜の蕾は木々が深く寒々としていた。
<八郎太郎伝説>
きみまち坂から七座山
真澄:麻生村から七倉山を眺む
真澄:巌の権現
真澄:獅子頭
七座神社
松座(松倉)
大座(大倉)
柴座(柴倉)
七座山からの眺め
藤琴 |
=真澄記=
昔大きな桐の木があって、これに藤がからまって倒れそうになった。村人はこれを見て桐を切り琴を作って殿様に献上した。
この木を倒した所に祠を建てて「藤権現」として末の世まで祀り、村の名も藤琴としたと言う。
村の娘は皆琴を奏すると言う。
湯ノ沢温泉 |
真澄:湯ノ沢
=真澄記=
温泉ではあるが、湯はぬるく、夏に浴客がくる程度で、今は人影がない。
左手に薬師如来の堂、右手に不動明王の堂がある。
入ってみると滝が高くから落ちていて、岩の藤に水が跳ねて本当にいい風情である。
湯ノ沢
滝ノ沢 |
真澄:滝ノ沢
=真澄記=
湯ノ沢から川を隔てて村がある。小比内と言う。この奥に滝ノ沢という村がある。
ここの不動尊のほとりにも、すばらしく良い滝がある。
鳥居が沢山立ち並ぶ橋を渡って堂に入って見れば、岩はことさら高く水煙が霧となってたちこめ、霞となって渡っていく。たぐいまれな景色だ。
滝ノ沢の峨瓏(がろう)の滝
十六貫山 |
真澄:十六貫山の七曲
=真澄記=
川を渡って栗の木台という山坂を上れば十六貫山が川岸からそびえている。
ここはいまだにきこり杣(そま)で、木を伐り、大炭というものを焼いている。
このために払った枝を小炭としてまた焼く。
こうして出来た場所の小柴を焼き払って畠にして家を作って住み、村となっている。
十六貫山
金沢村/真名子 |
金沢の集落
=真澄記=
この奥の太良鉱山(真澄:阿比良山)から出る黒鉛を16貫を一荷としてくくり、人の背でここまで運んだ。
ここから(藤琴川に)丸木舟に積み込んで下り、能代の港へと行ったそうだ。
真名子の村では、川の縁で泣いている子供を老女がかかえていく姿をみて「愛子」と重ねた。
真名子の集落
太良鉱山 |
=真澄記= 床屋に沢山の人が集まって仕事をしている。「お台所と川の瀬は、いつもどんどん鳴るが良い。」と唄っている。金を吹くたたらの音を鳴ると言う。 こ山神を祀る社があ、薬師の堂がある。川を隔てた山が非常に高く、雪が残っている。 この鉱山のしき(坑道)はどれくらいあるか知らないが、太郎作渕のしきは六八と言って坑口の高和八尺、幅六尺あると言う。この他水樋大切四六、大黒大切、板屋のしき、うばしき、化粧しきなど、昔は八百八口と言ったが今は蜂の巣のように堀り進み、千あまりの坑口と言う。 |
粕毛川遡上/不動の滝 |
真澄:不動の滝
=真澄記=
藤琴に戻り、不動明王の滝を見に粕毛川を遡った。
川沿の村を見下ろし、また川を渡って岸に上り、淵を危なげにたどって不動尊の堂に来た。「青黒山」の額がある。黒がねでささやかな剣を作って梁に並べている。あるいは穴の開いた石をかけて紙を結んで、麻糸をかけて手向けている。
滝のふもとに行けば、白糸を沢山かけたように水が落ちている。この滝の中に路があって、短いかたびらを着けた男が行に行く。
明王堂から舟に乗って須波利という渓谷へきた。岩がそびえて高く、淵は深いが水は静かで底がくまなく見えて涼しげだ。桃源郷を思い出していると、にわかに曇って雷鳴が谷に轟いた。
舟で下って長馬内という村で一夜の宿とした。
素波里の不動の滝
真澄:粕毛川遡上
素波里神社
粕毛川遡上
上流の素波里ダム
米田/萱沢 |
=真澄記=
米田という村を通り、萱沢という村の端に杉木立の中にちょっと違う杉がある。人に問えば「あおやしろ」という杉だそうだ。
真土を経て藤琴へもどった。
萱沢のあおやしろの杉
再び太良鉱山/滝の沢の滝 |
=真澄記=
湯ノ沢の滝もいいが、更に上って滝の沢の滝へきた。茂った草に落ちてくる水は面白い。
更に路を辿ると、木こり、炭焼き等が通る岨路がある。門前坊という所があって春は良い蕨がとれるそうだ。
興助滝が細く流れ、藤が大きな岩にからまっている。「花は言葉もなくきれいだ」と人は言う。
白滝というのもある。遠くの白峰から流れ来るのだろうか。「たたみ石」と言って大きな牛が3・4頭も隠れてしまうほどの岩がある。高さは十尋ばかりで淵に沿って立っている。
真澄:白滝
真澄:たたみ石
滝の沢、白糸の滝
大滝 |
真澄:大滝
=真澄記=
更に山坂分け入って、大滝へ出た。ここは白石、黒石という大きな川の合流点で、大きな川がひとつになって岩の狭間から迫り落ちてくる。
音はいかずちのようだ。雪が崩れるかと思う飛沫と霧が面白い。
更に淵を伝って行くと、不動尊の滝と言って、迫る滝の中に「鼻くり岩」という岩が立っている。
ここの蕗は「白石の蕗」と言って、葉も大きく茎は太く高く、和やかな味だという。
この白石川を更に上っていけば、津軽郡乙部山へ至ると言う。
真澄:不動の滝